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2014.07.01
一通の手紙
それは桃色の西洋封筒で、表には何かペンで走り書きがしてあって書留になっている。ストーン氏は受け取って、先ず表書を見たが、ちらと女の方に上眼使いをしながら、裏を返して一応検めてから封じ目を吹いた。中からは白いタイプライター用紙に二三十行の横文字を書いた手紙が出て来たが、それを手早く披いて読んでいるうちに、その一句一句毎にストーン氏の顔が緊張して来るのがありありと見えた。それに連れて読んで行く速度が次第に遅くなって、処々は意味が通じないらしく二三度読み返した処もあった。
読み終るとストーン氏は、そのまま封筒と一緒に手紙を右手に握って、又、女の顔をジッと見た。その顔付きは罪人に対する法官のように屹となった。静かな圧力の籠った声で問うた。
「今まで貴女が、ジョージ・クレイと話しをする時に、いつも羅馬字で手紙を書きましたか」
女は黙って首肯いた。
「……それから……今日……貴方はこの手紙で……ジョージ・クレイが命令した通りにしましたか」
「ハイ」
女の返事は今度はハッキリしていた。そうして静かに顔を上げてストーン氏の顔を正視した。
その顔は、電燈の逆光線を受けて、髪毛や着物と一続きの影絵になっていて、恰も大きな紫色の花が、屹と空を仰いでいるように見える。それを見下ろしたストーン氏は決然とした態度で、肩を一つ大きく揺すった。そうして鉈で打ち斬るようにきっぱりと云った。
「……よろしい……私は帰りませぬ。貴女にお尋ねをしなければなりませぬ。貴女はジョージと一緒になって、私に大変悪い事をしました。……さ……お掛けなさい」
女は最初から覚悟していたらしく、静かに元の肘掛椅子に腰を下して、矢張り石のように冷やかな姿でうなだれた。山手町 歯科
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