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2014.06.17
ある日の午後
葉子はしばらくぶりで、踊りの師匠に内弟子として預けてある瑠美子の様子を見に行きたいとかで、ちょうど遊びに来合わせていた二人の青年と一緒に出て行った。青年たちが省線で帰るにつけて、ふと思いついたふうにも見えたが、庸三もいつもの気持で送り出しもしなかったし、葉子も何か棄て台詞めいた言葉を遺して出て行った。庸三は二度とホテルへは帰って来るな、といった意味の言葉を送ったが、彼女は彼女で家の一軒も建ててくれるだけの親切でもあるならと、差し当たっての彼女の要求をそれとなく匂わした。
独りになってみると、部屋がにわかに広々してみえ、陰鬱に混濁した空気が明るくなったように見えた。気もつかないうちに、春はすでに締め切った硝子窓のうちへもおとずれて来て、何かぼかんとした明りが差していた。いつか散歩のついでに町の花屋で買って来たサイネリヤが、雑誌や手紙や原稿紙の散らばった卓子の隅に、侘しく萎れかかっていた。
じきに夜になった。庸三は外へ出る興味もなく、風呂へ入ってから、照明のほのぼのした食堂へ入って行った。洋楽のレコオドがかかっていて、外人が四五人そっちこっちのテイブルに散らばっていた。
アメリカ帰りのマスタアが、ここにこのホテルを建てた当初から現在に至るまで、およそ十年余りのあいだ、ここに滞在している仏蘭西人の異ったプロフェッサが一人いることは、いつか初めて葉子をつれて、日本座敷に泊まっていた時、マネイジャ格の老ボオイから聞いた話だったが、庸三はそれがどんな男か、それらしい老紳士の姿を、廊下でもサルンでも一度も見たことはなかった。彼は部屋を決める時、半永久的に床を自分の趣味で張りかえ、壁紙や窓帷も取りかえて、建築の基本的なものに触れない程度で、住み心地の好いように造作を造りかえた。飛蚊症 おすすめ 紹介!
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