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2014.05.26

検挙した闇の女

警察へ送るトラックであることは、一眼で判った。 「違います。あたしは……」  商売女ではないと、陽子は言いかけたが、巡査はそれには答えず、 「そら一丁!」 「よし来た!」  トラックの上の声が応じて、陽子はまるで荷物のように簡単に、積み上げられてしまった。  橋のたもとの街燈は、ガス燈のように青白く冴えて、柳の葉に降り注ぐ光の中を、小さな虫が群がって泳いでいた。陽子はトラックの上からふっとそれをながめた途端、気の遠くなるような孤独を感じた。  加茂川のせせらぎの単調なあわただしさは、何か焦躁めいた悔恨の響きを、陽子の胸に落していたが、やがてそれがエンジンの騒音に消されて、トラックが動き出した。  橋を渡ると、急にカーブした。途端に陽子は茉莉を想い出した。  陽子がダンサーになったのは、茉莉と知り合ったからであった。しかし、直接の動機はロマンティックなものではない。実は、家出して京都で宿屋ぐらしをしているうちに、二月の金融非常措置令の発表という殺風景な事情が、陽子をダンサーにしたとも言えよう。  家の方へは行先を隠し、また京都では素姓を隠す必要上、陽子は転入証明も配給通帳もわざと持って来なかった。だから、旧円を新円に替えることも、通帳から生活資金を引き出すことも出来なかった。旧円流通の期限が来ると、宿賃はおろか電車にも乗れないと、陽子は狼狽した。変形性膝関節症 サプリ

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