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2014.07.01
石のように冷やかな姿
ストーン氏も椅子を引き寄せて、女と差向いに腰をかけたが、手紙を丸卓子の上に置いて、左手でしっかりと押えて、屹と女を見詰めた態度は、依然として罪人に対する法官の威厳をそのままであった。一句一句吐き出すその言葉にも、五分の隙もない緊張味と、金鉄動かすべからざる威厳とが含まれていた。
「貴女のお名前は何と云いますか」
女はうなだれたまま答えなかった。しかしストーン氏は構わずに続けた。
「貴女のお名前は何と云いますか」
女はやっと答えた。
「それは申上げられませぬ。嬢次様のお許可を受けませねば……」
ストーン氏は苦々しい顔をした。
「それは何故ですか」
「何故でもでございます。二人の間の秘密でございますから」
軽い冷笑がストーン氏の唇を歪めた。
「……年はいくつですか」
「……十九でございます」
「ジョージよりも多いですね」
「どうだか存じませぬ」
ストーン氏の唇から冷笑がスット消えた。同時に眼からちょっと稲光りがさした。余りにフテブテしい女の態度に立腹したものらしい。
「学校を卒業されましたか」
「一昨年女学校を卒業しました」
「学校の名前は……」
「それも申上げられませぬ。妾の秘密に仕度うございます。校長さんに済みませぬから……」
「叔父さんに怖いのでしょう」
「怖くはありませぬ。もう存じておる筈ですから……でなくとも、もう直きに解りますから……」
「叱られるでしょう」
「叱りませぬ。泣いてくれますでしょう」
「何故ですか」
「あとからお話し致します」
「……フム……それでは……学校を卒業してから何をしておられましたか」
「絵と音楽のお稽古をしておりました」
ストーン氏は背後の絵を振りかえった。幡ヶ谷 歯科