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2014.07.01
流石に頭がいい
「……ど……どこに行きましたか」
女は依然として静かなハッキリした口調で答えた。
「どこへもお出でになりませぬ。お母様と御一緒にもう直きに天国へお出でになるのです」
私は危く声を立てるところであった。最前の手紙の中の文句に……私の生命が危ない……今一人の相棒の生命も駄目になる……とあったのを思い出したからである。
……志村浩太郎氏の最後には志村のぶ子が居た。
……嬢次少年の最後にはこの女が居る……。
……さてはあの手紙は真実であったのか。
……私の第六感は、やはり私の頭の疲れから来た幻覚に過ぎなかったのか。
……私はやはりここに来てはいけなかったのか……。
……うっかりするとこの女を殺すことになるのか……。
そんな予感の雷光が、同時に十文字に閃めいて、見る見る私の脳髄を痺らしてしまった。しかも、それと反対に、室内の様子を覗っている私の眼と耳とは一時に、氷を浴びたように冴えかえった。
バード・ストーン氏は幕を引き退けた入口の扉の前に、偶像のように突立っている。その眼は唇と共に固く閉じて、両の拳を砕くるばかりに握り締めている。血色は稍青褪めて、男らしい一の字眉はひしと真中に寄ったまま微動だにせぬ。
女はそれに対してうなだれている。顔色は光を背にしているために暗くて判らないが、鬢のほつれ毛が二筋三筋にかかって慄えているのが見えた。
やがてストーン氏は静かに両眼を見開いたが、その青い瞳の中には今までと全で違った容易ならぬ光りが満ちていた。相手が尋常の女でない事を悟ったらしい。氏は又も室の中をじろりと一度見廻したが、そのまま眼を移して女の髪の下に隠れた顔を見た。そうして低いけれども底力のある、ゆっくりした調子で尋ねた。
「貴女はどうしてそれがわかりますか」
「……………」神保町 歯医者