才能のある人や大成する人は、小さい頃からその素質が見られるということ。

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2014.06.17

夜分に外出

外で食事をするようなこともめったに聞かなかった。学校が休みになると彼は毎年行くことにしている、長崎のお寺で一夏を過ごすのも長年の習慣であった。彼は庸三と大抵同じくらいの年輩らしかった。  庸三は葡萄酒を一杯ついでもらって、侘しそうにちびちび口にしながら、ほんの輪廓の一部しか解っていないその外人の生活を、何かと煩累の多い自身に引き較べて思いやっていた。さりとて信仰なしに宗教の規範や形式に自身を鋳込むのも空々しかったし、何か学術の研究に没頭するというのも、柄にないことであった。彼は長いあいだの家庭生活にも倦みきっていたし、この惨めな恋愛にも疲れはてていた。心と躯の憩いをどこかの山林に取りたいとはいつも思うことだが、そんな生活も現代ではすでに相当贅沢なものであった。  一盞の葡萄酒が、圧し潰された彼の霊ををとろとろした酔いに誘って、がじがじした頭に仄かな火をつけてくれた。そして食事をすまして、サルンのストオブの側に椅子を取って煙草をふかしていると、幾日かの疲れが出たせいか、心地よく眠気が差して来た。  やがて彼は部屋へ帰って、着物のままベッドに入った。この場合広いベッドに自由に手足を伸ばして、体を休めることが、彼にとって何よりの安息であった。  庸三は葉子が帰って来るようにも思えたし、帰って来ないような気もして、初めはむしろ帰って来ない方がせいせいするような感じだったが、うとうと一と寝入りしてから、およそ一時間半も眠ったろうか、隣室の客が帰って来た気勢に、ふと目がさめると、その時はもう煖炉を境とした一方の隣りにあるサルンにも人声が絶えて、ホテルはしんと静まりかえっていたので、事務室の大時計のセコンドを刻む音や、どこかの部屋のドアの音などが、一々耳につきはじめて、ふっと入口のドアの叩く音などが聞こえると、それが葉子であるかのように神経が覚めるのだった。薬学生の質問掲示板 定期試験・進級・CBT・薬剤師国家試験対策

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